タイ社会は急速な高齢化に見舞われ、超高齢社会へと突入しています。
人口減少や労働力不足、社会保障制度の持続可能性、新たなシルバー経済への期待——さまざまな課題と希望が交錯する現状です。
今後の経済・社会の行方、日本企業含む外国の視点やタイ自身の底力を解説し、未来を共に考えます。
タイ高齢化の現状とスピード
タイが急速に超高齢化社会へと突入している背景には、長寿化と出生率の急激な低下が挙げられます。2023年時点で60歳以上人口は約1,300万人、全体の約20%を占めています。65歳以上に絞っても15%超、2030年代前半には21%を突破する見通しです。(出典:三菱総合研究所)
この変化のスピードは日本以上とも言われます。2004年に高齢化率7%(「高齢化社会」定義)を超えた後、2021年に14%(「高齢社会」)、そして2030年に21%(「超高齢社会」)に到達する見込みがあります。
- 出生率1.3〜1.5(人口維持に必要な2.1を大きく下回る)
- 毎年の新生児数は1960〜70年代に比べ半減以下
- 今後50年で人口4,000万人規模に減少しうるという予測も
このような人口動態の転換は、タイ経済や社会構造を根底から揺るがすインパクトを持っています。
タイの現場感覚には「このままだと豊かになる前に社会が老いてしまう」という切実な危機感があると感じます。一方で、社会として高齢化を新たなビジネスや福祉システム立ち上げのきっかけと捉える前向きな機運も高まっています。
今後10年でタイの社会設計・経済構造が大きく変化する可能性が高く、多くの企業や個人に「変化への対応力」を問う時代になるでしょう。
人口減少による経済と社会への衝撃
タイの総人口は2024年末で6,595万人ですが、出生数は戦後初めて50万人を割り込み、今や死者数が出生数を毎年上回る「人口減社会」に突入しました。(出典:THAI通)
現状と今後のポイントは以下です:
- 労働力人口は今後半減、2050年には2,280万人に減少の可能性
- GDP成長率の鈍化、人手不足が産業発展を阻害
- 年金・社会保障コストは急増の一途
年代 | 総人口(万人) | 出生数(万人) | 労働力人口(万人) |
---|---|---|---|
2024 | 6,595 | 46.2 | 4,500 |
2050 | 4,000 | 30未満予測 | 2,280 |
人口減少は消費市場の縮小や、地方の過疎化、若者の都市集中、そして社会の持続可能性全体に直結するため、日本以上にタイ社会に大きなインパクトを与えるでしょう。労働力確保や地方創生といったキーワードが今以上に重要になると考えます。
社会保障制度と高齢者のくらし
タイの社会保障制度はまだ途上であり、公的年金は公務員と民間被用者しか基本的に受給できません。また、多くの高齢者が貯蓄や家族の支援に頼らざるをえない状況です。(出典:厚生労働省)
- 高齢者の半数以上は世帯依存もしくは自営業収入
- 平均所得は年収約87,136バーツ(月収7,261バーツ)と最低賃金を下回る水準
- 老後資金が十分でない高齢層が大多数
考察しますと、家族という社会的セーフティネットの役割は重要な一方、都市化や女性の社会進出、核家族化が進む今こそ、国家による介護・福祉サービスの拡充と社会保険のインクルージョン(包摂性)が不可欠です。
急激な高齢化に「伝統的な家族モデル」だけで対応するのはもはや難しく、社会全体で負担を分かち合う設計へのシフトが求められていると強く感じます。
医療・介護インフラの現状と課題
高齢化の進展は、タイ国内の医療・介護需要を大きく押し上げています。しかし現実には下記のようなギャップが目立ちます。
- 都市部中心の医療リソース偏在(農村部は医師不足・アクセス格差)
- 公的介護サービスの整備が遅れ気味
- 民間介護施設の数は依然不足(富裕層向けサービスが中心)
タイ政府も医療インフラや介護人材の育成、ボランティア制度、福祉施設ネットワーク拡充など様々な策を打ち出していますが、財政や制度面の制約は根強いです。(出典:経済産業省+)
今後は「健康長寿社会」の実現に向けて、予防医療・地域コミュニティ型の支援、さらには国際協力を含めた新たなヘルスケアモデル構築が急務だと考えます。
タイ社会の変化—家族・地域・価値観の揺らぎ
従来、タイでは家族型介護が主流でしたが、都市部・経済の変化、女性の社会的役割の変容で、家族介護への依存度が急激に下がっています。
- 「親を施設に預けるのは不孝」という価値観からの変容が進む
- 都市圏で孤独高齢者・老老介護が拡大傾向
- 少子化で家族単位そのものが縮小
タイ社会は伝統と現代化のせめぎ合いの中で、家族・地域で高齢者を支える新たな枠組みが模索されています。
感想としては、ソーシャルワーカーやコミュニティケアの拡充と、高齢者自身が地域社会とつながり続けられる「共生社会」の形成こそ、これからのタイの持続的成長のカギだと思います。
経済の新潮流:シルバーエコノミーが切り開く未来
一方で、シルバーエコノミー(高齢者向け経済分野)は新しい産業成長領域として注目されています。
産業分野 | 主な例 |
---|---|
ヘルスケア | 介護機器/健康食品/予防医療 |
住宅・リフォーム | バリアフリー住宅/高齢者向け村 |
サービス・観光 | メディカルツーリズム/アクティブツーリズム |
DX・IT | 遠隔医療/高齢者向けIT支援サービス |
今後は、日本や先進国が培った知見や技術を生かしつつ、タイ独自の多世代コミュニティと健康志向文化とを連動させた展開が肝心です。外国企業とタイ社会の協業で、シルバー経済が次世代産業の柱となっていく流れを強く感じます。
タイ政府による政策と民間の取り組み
タイ政府は「国家高齢者計画」や「高齢者宣言」を掲げ、多方面で高齢者支援を進めていますが、現場では下記の課題が残ります。
- 福祉・介護予算の増額と効率化の必要
- 縦割り行政の壁と制度浸透の遅れ
- ボランティア活用や地域センターの連携強化
また民間企業やNGOのほうが現場の高齢者ニーズに柔軟なサービス(移動販売、訪問看護、ICT介護手法など)を展開していることも増えています。
個人的な見解としては、政府・民間・コミュニティ三位一体で「現場課題の見える化」と「地域ニーズ主導の政策設計」がいっそう不可欠と考えられます。
日本への影響と国際協力の可能性
タイ高齢化は日本社会や企業にも大きなインパクトをもたらしています。タイはASEAN屈指の親日国で、日本企業や団体の高齢者市場への進出、技術・ノウハウ提供が進んでいます。
- 医療機器・介護福祉製品、日本式高齢者住宅等の進出
- 現地企業とのジョイントベンチャーや技能研修
- 留学生・人材交流による知見共有
(出典:Manamina)
タイ社会が抱える課題は先に直面した日本の知見が生かせる部分が多く、パートナーシップの深化によって両国の持続的共生が実現すると考えます。
日本社会もタイから「活気ある高齢化社会の実現」や「コミュニティケアの手法」など学べる部分が少なくありません。両国の強みを持ち寄る国際協力の力に期待しています。
技術革新・DXが開く高齢化社会の新局面
ICTやデジタルトランスフォーメーション(DX)の波も高齢化社会の課題解決に有望です。
- 医療リモート診療/PHSなど遠隔ケアの発展
- 高齢者の生活支援ロボット・IoT活用
- 銀行・行政サービスのデジタルインクルージョン
今後は教育・労働・暮らしのあらゆる場でDX推進が急展開する可能性が大きいと感じます。特にシニア世代のITリテラシー向上や、バリアフリーなサービス設計が社会の共感を集める時代に突入しています。
Q&A:よくある疑問に答える
まとめ——超高齢化社会を希望に変えるために
超高齢化社会に突入したタイでは、人口減少や福祉負担の増大など数々の難題が山積しています。ですが、これまでの日本や先進国がたどった軌跡、タイ社会の創造性、自助と共助の伝統などを考えると、未来に希望を見出すことも十分可能だと私は感じています。
個人的には、課題の多さだけを憂うのではなく、変化への対応力・新産業創出・国際的な協力の輪を広げる力こそタイの底力だと信じています。シルバーエコノミーやDX、高齢者の積極的な社会参加など新しい息吹を感じる現場にも多く出会いました。
これからのタイ社会に最も必要なのは「誰も取り残さない仕組み」と、変化を受け入れ希望へと転換するしなやかな心です。課題を分かち合い、新しい価値や経済を共創する社会——私はその実現を強く期待しています。
日本含む諸外国との協力や技術展開、地域主導のイノベーションが結集することで、タイの超高齢社会は新しい可能性に満ちた空間に変わることでしょう。